沖縄の通夜に行う「ヌジファ」。儀礼に見る霊魂への信仰
沖縄では通夜の夜、ヌジファの儀式を病室で行う方が多いですよね。「ヌジファ」は沖縄の言葉でひとつの儀礼を差し、漢字では「抜魂」と書きます。
漢字で書くと分かるように、沖縄で通夜に行うヌジファは、魂を体から抜く儀礼です。沖縄では人が亡くなると、その場所に魂が留まると信じられ、ご遺体を移動する時には、ご遺体から一度魂を抜き、移動先で再び魂を付けます(ヌジファの結び)。
実は、沖縄では通夜に行うこの「ヌジファ」だけではなく、日々の暮らしでも霊魂の存在を感じます。沖縄の人々にとって霊魂とはどのようなものなのか、興味深いですよね。
そこで今回は、沖縄の通夜に行うヌジファをはじめとする儀礼を元に、沖縄の人々の霊魂への考え方をお伝えします。
沖縄の通夜に行う「ヌジファ」。
儀礼に見る霊魂への信仰
沖縄での「霊魂」
沖縄では「霊魂」、つまり「魂」は「マブイ」と呼ばれ、「タマシ」などとも言われます。
那覇市を中心にして沖縄の言葉は少しずつ変わりつつありますが、そんななかでもほとんどの沖縄の人々が、「マブイ」と言えば「魂」と理解するのではないでしょうか。
【 沖縄の通夜儀礼「ヌジファ」に見るマブイ 】
★ 沖縄の人々は生きている体の内には、その行動や心を司る霊魂、つまりマブイがあると信じています。
・ さらに人の体のなかに宿るマブイは複数あるとされ、マブイを数える「イチマブイ(五マブイ)・ナナマブイ(七マブイ)」の言葉まであるほどです。
そのため、沖縄の通夜儀礼でのヌジファは、大きなひとつのマブイを抜く儀礼を行いますが、生きている人々も日々の暮らしの中で、マブイを落としたり、抜け落ちたりします。
生きている人々の、「マブイヌギ」とは
では、日々の暮らしのなかでどのような時にマブイを落とすのでしょうか。例えば、「交通事故に遭いそうになってビックリした!」と言う時にも、マブイが抜け落ちてしまいます。
そのため今でも沖縄では、その現場にマブイを拾いに行く人が多いです。ただし、ユタさんなどの神人へ頼むことなく、自分で簡単な儀礼をして拾います。
【 沖縄の通夜儀礼「ヌジファ」に見るマブイ 】
★ また、重病人や重傷人も魂が抜け落ちている状態で、より多くの魂が抜け落ちているとされ、これが「マブイヌギ」の状態です。
・ 人の体は複数のマブイを宿しているので、「マブイヌギ」の状態でも死に至ることはなく、重傷の床ではマブイを入れる儀式を行う人も見受けます。
これが沖縄の人々が考える「マブイ」の存在なのですが、沖縄の通夜での「ヌジファ」で扱うマブイは、「シニマブイ(死に魂)」と呼ばれ、少し違うのです。
沖縄の通夜のヌジファで扱う「シニマブイ」
沖縄では「イチマブイ(生魂)」(五つの魂である「イチマブイ」とは違うものです。)と呼ばれる、複数のマブイの根幹となる魂があるとされています。
他のマブイは抜け落ちても戻せたり、残されたマブイで死に至ることはないのですが、この「イチマブイ(生魂)」は生命維持の役割を持つため、抜け落ちてしまうと人は死に至る、重要なマブイです。
【 沖縄の通夜のヌジファで扱う「シニマブイ」 】
★ けれども、人は死んだ後にも霊魂は残されると信じられ、体を離れた霊魂を「シニマブイ(死に魂)」と呼びます。沖縄の通夜で行うヌジファでは、この「シニマブイ(死に魂)」を扱っているのです。
・ これは沖縄では「霊魂不滅」の言葉で表現されています。言葉の通り、肉体は朽ちてもマブイ(霊魂)は永遠に残る、との考え方です。
ですから沖縄では通夜にヌジファを行い、遺族が「今から家に帰るから、一緒に帰ろうね~」などと声を掛けて、ご遺体から抜けてしまった魂を誘導する儀礼があります。
死後まで続く、「霊魂不滅」
「霊魂不滅」ですから、もちろんご遺体が火葬されて供養された後にも、故人のマブイは残り、さらに生きている者のマブイと同じように、シニマブイにも複数のマブイがあるとされています。
【 沖縄の通夜のヌジファに見る、霊魂不滅 】
★ 故人のマブイ(霊魂)は死後も複数存在し、その一部はお仏壇の位牌に宿り、他の一部はお墓に宿る…、と言うように複数の場所に故人のマブイがあると信じられてきました。
・ そのため、納骨の後には「マブイが迷わないように…。」「家族に付いてこないように…。」と違う道で帰る風習などもあります。
沖縄の通夜に行うヌジファをはじめとする、独自の儀礼や供養の数々の多くは、このマブイへの信仰を理解すれば、納得できるものが多いです。
いかがでしたでしょうか、今回は沖縄の通夜で遺族が行う「ヌジファ(魂抜き)」の儀礼が理解できる、霊魂への信仰についてお伝えしました。沖縄ではマブイ(霊魂)への信仰は、あらゆる行事や御願で感じ取ることができます。
生きている者と同じく、シニマブイには良いマブイもあれば悪いマブイもあり、マブイを恐れたり、悪いマブイは爆竹を鳴らして退治することもあるほどです。
また、生きている者がグソー(後生=あの世)へ引っ張られぬよう、妊婦さんや同じ干支の人々は通夜や葬儀へ参列しない、などの習わしもあります。
「霊魂不滅」の沖縄の信仰では、仏教の教えと同じように三十三年忌では神になる、とされています。ですから三十三年忌は焼香(年忌法要)も「ウフスーコー」と呼ばれ、お祝いの意味合いが強くなるのです。
まとめ
沖縄の霊魂への信仰とは
・霊魂は「マブイ」と呼ばれる
・マブイは複数あり、落とすこともある
・マブイを落とすと拾いに行く
・イチマブイ(生魂)は生命を維持する魂
・イチマブイが抜けると死んでしまう
・死んだ魂は「シニマブイ」
・シニマブイはヌジファで遺族が誘導する
・霊魂は死後も亡くならない
・死後のマブイはお墓や位牌に宿る
・三十三年忌で神になる