必ずお墓を引き継ぐの?「祭祀継承者」5つの知識
現代ではお墓を引き継ぐとなると、負担に感じる方も多いですよね。長男が一切の家督を継いだ昔とは違い、管理や法事の主宰など、責任ばかりがのしかかります。
けれども誰もお墓を引き継ぐことなく、放置されてしまえば、いずれは無縁仏になることを思うと、なかなか断ることもできません。
そこで今日は、まず、お墓を引き継ぐことは拒否できるのか…、もしもお墓を引き継ぐことになったら、どのようにして負担を減らすのか…、役立つ知識をお伝えします。
ぜひ、参考にしてください。
必ずお墓を引き継ぐの?
「祭祀継承者」5つの知識
そもそも、お墓を引き継ぐ人は誰?
相続では、お墓やお仏壇などのご先祖様のご供養のためのものや道具を「祭祀財産(さいしざいさん)」と言い、これらを引き継ぐ人を「祭祀継承者」と言います。
旧民法では「家督相続」と呼ばれる相続制度があったため、昔ながらの日本には、「長男が祭祀財産と共に家督(家の財産)の一切を継ぐ」とする家も多くありました。
この「しきたり」が今にも残る地域も多いものの、現代の新民法では財産分配は、相続の権利を持つ人々に平等です。
ただし「祭祀財産(さいしざいさん)」に限っては、その他の純粋な財産とは性質を別とし、祭祀財産を抜いた残りの財産を平等に分配します。また、祭祀財産には相続税も掛かりません。
【 お墓を引き継ぐ☆「祭祀継承者」になる時って? 】
★ 一般的な習慣では、長男の他に配偶者や家族など、身内が継承する家庭がほとんどですが、下記のようにお墓を引き継ぐケースが多いです。
① 現在の祭祀継承者(祭祀主宰者)による指定 …
一般的には父親などが祭祀継承者だった場合、高齢になった頃に、長男をはじめとする、自分の子どもや家族、親族などを指定します。
② 家族・親族での話し合いの結果 …
現在の祭祀継承者が次を指定せずに他界した場合、その地域のしきたりや習わしを元にして、家族や親族で話し合い決めます。
③ 家庭裁判所 …
皆がお墓を引き継ぐことを拒否したケースなど、まとまらない場合には家庭裁判所へ持っていくことも多いです。
…家督相続を当然とした昔の日本と違い、「負担ばかりが増える」として、お墓を引き継ぐことを避ける人々は多く、トラブルになることもしばしばです。
娘がお墓を引き継ぐことはできる?
現在では「必ず男子を産む」などの考え方もすっかりなくなりました。また、前項のような理由や、息子がいても遠方に住んでいるために、お墓を引き継ぐことが困難なケースがあります。
一方、現代では結婚した娘が両親の近距離に住み、子育てを手伝ってもらう家庭も増えたため、どちらかと言えば、「息子より娘との距離が近い」と感じる家庭は多いです。
…そのためか、最近では「娘ですが、お墓を引き継ぐことはできますか?」などの相談も増えました。
【 お墓を引き継ぐ☆娘が祭祀継承者になることはできる? 】
★ 現代の法律では、娘であっても問題はありません。それどころか、法律から見れば、家族以外の者がお墓を引き継いでも大丈夫(※1)です。
・ 娘が実家のお墓を引き継ぐ場合、結婚したパートナーが長男などで、両家のお墓を引き継ぐケースも増えました。この点まで考えてから、検討すると良いかもしれません。
夫婦それぞれのお墓を引き継ぐ家庭も増え、最近ではそれぞれのお墓を改葬(引っ越し)して、同じ墓地に隣り合わせて建てる「両家墓」も多くなりました。
(※1)法律上は家族以外の者がお墓を引き継ぐことは充分に可能なのですが、墓地が寺院墓地の場合には、注意が必要です。
宗旨宗派によって、その宗教的な方針から、血のつながった者しか、お墓を引き継ぐことを受け付けない寺院があります。
もしも家族以外の者がお墓を引き継ぐ可能性が出てきたら、最初に墓地管理者に確認をして、必要であれば、それが許される墓地へ改葬(引っ越し)をする必要が出てくるかもしれません。
兄弟でお墓を引き継ぐことはムリ?
お墓を引き継ぐことは、体力的にも精神的にも、また、経済的にも負担は大きいですよね。兄弟や親族など、何人かで受け継ぐことができれば、心強いです。
けれども、なかなか難しいかもしれません。
【 お墓を引き継ぐ☆兄弟共同での継承はムリ? 】
★ 現在の法律では、先祖供養を主宰する者(祭祀主宰者)が「単独で」、お墓を引き継ぐと決められています。
・ 祭祀継承者になったからと言って、法律上の手続きは必要ありませんが、お墓や墓地の名義変更は必要です。
お墓や墓地の名義変更ですが、こちらも墓地によって規則が違うために、できるだけ早くの手続きをおすすめします。
霊園(墓地)によっては、名義変更の届け出の期限を設けている管理者も多く、そのような施設でに届け出が遅れると、すでに使用権を失効しているかもしれません。
【 お墓を引き継ぐ☆形式上は単独でも 】
★ このように複数でお墓を引き継ぐことは、法律上は難しいのですが、名義が一人でも、兄弟で協力し合うことは充分にできますよね。
・ 父方の血族で入る沖縄の「門中墓(むんちゅうばか)」などでは、そのお墓に入る予定の家族や親族が、皆でお金を積み立てる習わし、「模合(もあい)」があります。
…この他にも、墓主が単身赴任などで遠方に一時期的に移り住めば、近隣に住む兄弟がお墓を見るなど、それぞれに出来る方法での協力体制は可能です。
宗旨・宗派が違う時は?
今の日本では「自分の宗旨・宗派って何だっけ?」と言うケースも少なくありませんが、時に宗旨・宗派の違いによる相談もあります。
本人はさほど拘っていなくても、例えば前述した「娘がお墓を引き継ぐ」時、両家墓を建てたいとします。
この時、夫婦の実家の宗旨宗派が違うとなれば、どちらかのお墓へ改葬(引っ越し)することが難しいです。
【 お墓を引き継ぐ☆宗旨宗派の違い 】
★ 宗旨宗派がハッキリとしている寺院墓地のお墓を引き継ぐ場合には、祭祀継承者となった者は、その寺院の「檀家(だんか)」になるよう、促されるかもしれません。
・ ご自身の宗旨宗派が決まっていれば、その寺院墓地でのお墓を引き継ぐことは、難しくなります。
…このように、祭祀継承者やその他の「宗旨宗派」で悩みが生じた場合には、宗旨宗派に括りのない施設が多い民間霊園へ改葬(お墓の引っ越し)をするのも、ひとつの解決策です。
特に沖縄の場合、「そもそも宗旨宗派を持っていないのに、お墓を建てるためだけに宗旨宗派を括られるのは、抵抗がある…」と言う声も多く聞こえます。
このような場合には、そもそも宗旨宗派の括りのない施設が多い、民間霊園へ相談をしてみてはいかがでしょうか。
継承したものの、全く管理ができない時は?
一般的に今の日本では、現在の祭祀主宰者に指名をされると、「辞退できない」となっています。
祭祀主宰者は生きている内に口で伝えることも多いですし、遺言書に残すケースも増えました。
…ただ、本人にその意思はないのに、全ての責任を一人で負うことになり、苦しんだ相談事例もあります。
【 お墓を引き継ぐ☆お墓の管理・維持が負担 】
★ 確かにお墓を引き継ぐ時に指名をされると、辞退をすること自体は難しいのですが、継承した後は決定権は祭祀継承者にあります。
・ ですので、あまりにも一人でお墓の維持・管理の負担が増えているようであれば、「墓じまい」も決定権があるのは継承者です。
また現在祭祀主宰者で「一人の子どもだけに偏った負担は、できるだけ掛けたくないけれど…」と悩んでいるのであれば、お墓を引き継ぐ負担分の財産を相続してもらう方法もあります。
遺言書で多く指定したり、生前贈与と言う方法も一案です。
いかがでしたでしょうか、今日はお墓を引き継ぐ可能性のある方々へ向け、「誰がお墓を引き継ぐのか」「拒否はできるのか…」などなど、多い相談を元に、いくつかの役立つ知識をお伝えしました。
両親やご先祖様への供養の気持ちはあるものの、「一人でお墓を引き継ぐ」となると、現実的に難しい側面もありますよね。
お墓を引き継ぐと自分達の子どもまで、継承問題が続きますし、お墓は安いものではありませんから、古くなって修繕する時にも、それなりの費用が掛かります。
祭祀継承者として指名されているのであれば、本記事もぜひ参考にしながら、家族や親族に相談しつつ、できるだけ負担の少ない方法を探してみてください。
まとめ
お墓を引き継ぐ時に役立つ豆知識
・現在の墓主の指名や話し合いで決まる
・法律上は誰でもお墓を継承できる
・寺院墓地の場合、血縁に限ることもある
・寺院墓地の場合、檀家になることもある
・宗旨宗派の違いで悩んだら民間霊園もアリ
・継承は拒否できないが、継承後は決定権がある
・負担分は生前贈与や遺言書で与えることもできる