沖縄のお墓参りの風習。知っておきたい9つの常識
沖縄のお墓参りは独特の風習があり、全国的な常識とは大きく掛け離れていますよね。沖縄のお墓参りの風景のひとつ、墓前でお供え物を皆で食べるウサンデーは、沖縄好きな方なら有名な光景ではないでしょうか。
もちろんこのウサンデーも、沖縄らしい風習のひとつなのですが、他の地域出身の方が沖縄のお墓参りに参加すると、「これは何?」「何をしているの?」と、戸惑うことばかり…。それもそのはず、そもそも準備する用具が初めて見る物ばかりです。
初めての沖縄のお墓参りであれば、戸惑って当然!ただ、せっかくなら事前に調べて理解し、沖縄のお墓参りを地域の方々と共に楽しみたいですよね。
そこで今回は、初めての沖縄のお墓参りの際に知っておきたい、沖縄のお墓参りに欠かせない用具とその扱い方などをお伝えします。
沖縄のお墓参りの風習。
知っておきたい9つの常識
沖縄のお墓参り、神様への挨拶「ビンシー」
沖縄のお墓参りと言えば、墓前で親族一同が集まって、お供え物を分け合い食べるウサンデーが有名ですよね。4月5日前後に行われる(旧暦で数えるため、その年によって正確な日にちが違います。)清明祭(シーミー)では、お馴染みの風景ではないでしょうか。
そんな沖縄のお墓参りだからなのか、御願(ウガン=供養や拝み)のための道具が詰められた「ビンシー」なる携帯できる木箱があります。昔ながらの家なら、皆が持っているとも言える物です。
【 沖縄のお墓参りに欠かせない「ビンシー」 】
★ ビンシー自体は22cm(横幅)前後の木箱で、仏具店へ行くと手に入るもの。職人さんが丁寧に作ったものもあり、6千円前後のものなどが売られています。
ビンシーには中央に盃、その両側にお酒を入れる仕切りがあり、その前にはお米が入る仕切りが三つ…、洗っているお米と洗っていないお米をそれぞれ入れます。
ただし、あくまでも「ビンシー」は神様に対してのお供えを供するためのものです。ですからお墓参りに持参をしても、墓前のご先祖様へ供えることはありません。
ではなぜ、お墓参りにビンシーを持参するのか…と言えば、お墓の左側(向かって右側)にいらっしゃる、日ごろお墓を守ってくださる土地神様、「ヒジャイガミ」様への拝みで用意するためです。ですが「必ず」ビンシーを用意しなければならない訳でもなく、地域によって違いがあります。
昔から神様への御願行事の時にはビンシーを用意しても、お墓参りではヒジャイガミ様へ拝む時にもビンシーを用いない家は多くありました。
また、一部ではビンシーは「実印」とする家や地域もありますが、実際にはビンシー自体の歴史も浅く、庶民から広まっています。そのため、実際にはビンシーが用いられた背景には「屋外での拝みで、持ち運びに便利」な道具だったのかもしれません。
一部の地域に残るビンシー
とは言え、一部では神様への拝みで用いるビンシーとは別に、ご先祖様(ウヤフジガナシー)への拝みで用いるビンシーがある地域があります。
沖縄県南部の糸満市が有名ですが、ここでは上の写真にあるように、一般的な沖縄の「ビンシー」とは違う形状の「ご先祖様用」のビンシーが用いられてきました。
地元の高齢の人々のなかでは、前項のような一般的な神様へ捧げる「ビンシー」が「実印」で、このご先祖様(ウヤフジガナシー)へ捧げるビンシーは「認印」とする方々もいます。
ただ、今ではすっかりご先祖様へのビンシーを今に残す家は少なくなり、若い世代では「見たこともない!」と驚く方も多いかもしれません。
【 ご先祖様への拝みで使う「ビンシー」 】
★ 神様へ捧げるビンシーとは違い、正方形の形状をしていて、三つの「穴」が開いています。
・ この二つの穴に徳利、中央の穴に杯を入れて、お供えをして拝むのですが、持ち運びは風呂敷に包んで持ち運ぶのがしきたりです。家によって緩い厳しいはありますが、一応包む風呂敷は青や紫などの寒色が良いとされてきました。
一部沖縄の高齢の方々の話では、そうすることで「ヤナムン」や「チガリムン」と言う、餓鬼や浮遊霊などの悪い霊から、ご先祖様への神聖なお酒を守ると言われています。
「ビンシー」は貸し借り禁止
最初の項でお伝えしたビンシーには、お酒やお米の他にも、御願(ウガン)に必要なウチカビやヒラウコー、賽銭などを納めることができます。
ですから前項でお伝えしたように、神様への御願道具でありながら、持ち運びしやすく便利です。ヒジャイガミ(左神)様へ拝みを捧げる時、お供えものを盆に並べるには手間隙が掛かりますが、そのまま開くだけで整理しやすく、ご先祖様への拝みの道具も入れておくことができます。
【 ビンシーは携帯しやすいだけではない 】
★ 前項でビンシーは「実印」と言いましたが、正確には「あの世とこの世を繋げる印」です。「○○家が神様へ拝んでいます」と言う意味合いがあります。
・ ですから「実印」と言う表現でも分かるように、他の家に貸し出すことはできません。それぞれの家にそれぞれの「ビンシー」を用意します。
そのため、ビンシーを準備していない場合には、周囲の家から借りることはご法とされ、同じ用具を揃えた「仮ビンシー」で対応しなくてはなりません。
仮ビンシーを準備する
前項でも少し触れたように、現代でこそビンシーは家の「実印」とされ、貸し借りできないほどに貴重なものとして扱われていますが、戦後辺りで庶民を中心に広がった御願道具であり、その昔の琉球王朝では用いられてはいませんでした。
その当時の様子を調べてみると、神様へのお供え物は盆に供えられており、今でも盆に並べる家は多いです。けれども「仮ビンシー」として準備する家庭や地域も見受けられます。
【 仮ビンシーを準備する 】
★ 「仮ビンシーを準備する」と言っても、そんなに身構えることはありません。お盆でも良いのですが、屋外の御願では不便ですよね。ですからタッパーなどにお塩やお酒を揃えれば大丈夫です。
・ ただヒジャイガミ(左神)様への拝みの後、墓前(ご先祖様)へ拝みますよね。拝みの際のお供え物には、重箱料理(御三味=ウサンミ)もありますから、荷物がごちゃごちゃになりやすいです。そんな実用的な意味合いでも、仮ビンシーは便利なので、どうぞ準備をしてみてはいかがでしょうか。
ちなみに、沖縄のお墓参りでは、神様の拝みは地域によって異なります。地域によっては①お墓の敷地に入る時、足を踏み入れる前に入り口の左側へ拝む②ヒジャイガミ(左神)様へ拝む③墓前(ご先祖様)へ拝む、の流れもありますが、一般的には敷地にはそのまま入り、ヒジャイガミ様へ直接拝みを捧げます。
定番!「ウチカビ」
次に他の地域の方々が「なにこれ!」と驚く、沖縄のお墓参りでの定番御願(ウガン)用具が、「ウチカビ」ではないでしょうか。旧正月やお盆、清明祭(シーミー)の時期になると、沖縄のスーパーではお店にたくさん積まれているのも新鮮です。
【 沖縄のお墓参りの定番、ウチカビ 】
★ ウチカビは漢字で書くと「打ち紙」。茶色い紙に丸い印のようなものが刻印されていて、束になって販売されていますが、これは天国のお金。ウチカビを燃やして煙にすることで、天国へ届けます。
沖縄のお墓参りやお盆では、ご先祖様が次にお会いするまでに暮らしに困ることがないよう、最後にウチカビを焚いて届けるのが慣わしです。
ヒジャイガミ様へは「シルカビ」
ただしこの「ウチカビ」は、ご先祖様のみに当てはまります。神様へも「納税」として神様へのお金「シルカビ」を焚き上げますが、ウチカビではありません。
シルカビは手作りで用意しますが簡単で、半紙を四等分して、二つに折っただけのものです。
【 神様への「税金」、シルカビ 】
★ 半紙を四等分したら、よくよく折り目を付けて手で千切り、さらにこれを二つ折りにする作り方が一般的で、最初に拝むヒジャイガミ(左神)様へ、ビンシー(やお供え物)と共に捧げ、拝んだ後に燃やします。
・ 燃やす方法は、金属ボウルなどのウチカビやシルカビを燃やすための御願道具「カビバーチ」などに、シルカビを入れて燃やし、燃やし終えた頃に供えていたお酒を掛け、さらに供えていたウハチ(重箱料理から取り分けた、神様へのお供え料理)を入れてください。
また、屋外の神様への拝みでは、「置きシルカビ」と言って、火を付けないで拝む「ヒジュルウコー(冷たい線香)」での拝みの時などは、ヒラウコー(沖縄線香)の下に敷くなどて扱います。
ウチカビの燃やし方
前に戻り「ウチカビ」についてですが、実は枚数は地域や家庭によってかなりの違いがあります。一人につき三枚が最も有力ですが、一枚・二枚と言う事も…。あまり多くウチカビを燃やしていたら「お坊さんに怒られた!」なんて話も時々あります。
ただ天国のお金だけに「多いほど良い。」とされていて、沖縄のお墓参りやお盆では、「多めに奮発しようね~。」なんて燃やす光景もしばしば見受けられます。一説ではウチカビ一枚に付き一万円!なんて見解もあるのが面白いです。
【 沖縄のお墓参り、ウチカビの燃やし方 】
★ こちらもシルカビと同じ「カビバーチ(カニバーキ)」で燃やす家が多いです。この底に網を敷くなどして、安全に燃やしてください。火箸も準備しておくと便利です。
※ 沖縄では「ウチカビセット」なるものがホームセンターなどで販売されています。
最近ではお墓参りでウチカビを燃やすための、おしゃれなものも販売され始めました。御影石などの墓石の石材が用いられたものなどが見られます。
また、ヒジャイガミ様の反対側(こちらも神様はいるのですが…)、ウチカビを燃やすための場所を設けているお墓もありますので、このようなお墓ではコチラを利用すると、より安全です。
また、一部の地域ではカビバーチや金属ボウルに水を入れ、そこにネギの輪切りを入れて、ウチカビやシルカビを燃やす風習もあります。
「ネギ」の輪切りは刺激的な匂いがあるため、「チガリムン(餓鬼)」や「ヤナムン(悪い霊)」からウチカビやシルカビ、お供え物を守る、退散させる意味合いです。
沖縄のお線香、「ヒラウコー」
ウチカビと共に、他の地域で暮らす方々が観光などで来ると新鮮に映る、御願(ウガン)用具がヒラウコーではないでしょうか。ヒラウコーを漢字にすると「平御香」。他の地域でのお線香の役割そのものです。
【 沖縄のお線香、ヒラウコーとは 】
★ ただ全国的に扱われているお線香とは違い、平たい形状になっているのが特徴的です。お線香をくっ付けたような板の形をしています。
・ ひとつのヒラウコーに6本が「くっ付け」られていて、この6本一対を「一平(ひとひら)」と数えてください。
→ 必ず6本一平(ひとひら)を焚く訳ではなく、半分の3本を1人が焚くことがほとんどです。これは調和を表した数字として重んじられているためと言われています。
一方で御願(ウガン)で進行役が焚く事の多い本数が、二平(ふたひら)の12本。これは一年12ヶ月を差しているなど…、このヒラウコー(平線香)の拝し方にはさまざまな風習があるのも特徴的です。
沖縄のお墓参りはまず「ヒジャイガミ様」
今までも何度も登場していますが、沖縄のお墓参りをする際には、ご先祖様の前にお墓の左側にいらっしゃる「ヒジャイガミ様」にお供えをして御願(ウガン)をするのが作法です。
ヒジャイガミ様はその土地の神様、お墓の神様で参拝する側からは、向かって右側となります。
【 沖縄のお墓参り、ヒジャイガミ様 】
★ ヒジャイガミ様へまずお供え物をして、御願(ウガン)をしてから、中央のご先祖様を拝んでください。
・ 沖縄のお墓参りの定番料理、重箱料理のウサンミ(※1)も、ヒジャイガミ様の拝みでまず、供えます。
→ ヒジャイガミ様への拝みでは、重箱からウサンミそれぞれのおかずをひっくり返して上に乗せ「ウハチ(お初)です」と一言添えて、お供えをしてください。拝んだ後は、ひっくり返したおかずを別のお皿に乗せて供え、重箱はご先祖様の墓前へと移ります。
この時、二切れずつ取り分けると、ウサンミ(お重料理)がその分空きますが、事前に空くであろう部分のおかずを別に用意して、ここに補充をしてください。
沖縄のお墓参りではこの「補充分」は必須です。これを「ウチジヘイジ」と言い、補充をすることで「真新しく」なり、ヒジャイガミ様もご先祖様(ウヤフジガナシー)も、「ウハチ(お初=最初のおかず)」を差し上げている…、と言う意味合いになります。
本当はそれぞれにウサンミを用意した方が良いのかもしれませんが、大事になりますので、ウチジヘイジで補充をして、「手を付けていないご馳走」としてきました。
(※ウサンミ)沖縄の拝み事では欠かすことができない二段~四段の重箱料理で、二段(もしくは一段)に奇数品目のおかず、残りの二段(もしくは一段)にはおもちが入っています。
いかがでしたでしょうか、これだけでも沖縄のお墓参りが、いかに独特の文化を持っているかが窺い知れるのではないでしょうか。けれども他にも多くの沖縄らしい、独自の風習を持っています。
沖縄のお墓参りにはジュウルクニチ(十六日)やタナバタ(七夕)などもありますが、何と言っても春先に行われる清明祭(シーミー)が有名!沖縄のお墓参りは大きなお墓に納得できるほど、大勢で賑やか、盛大に行われます。
お酒や食べ物も持ち寄り、まるで花見かピクニックのよう…。この時期に訪れた観光客のなかには、「たまたま出向いた場所で参加させたもらった!」などの報告もあるほどなのです。
せっかく参加するのなら、本記事を参考に沖縄の文化を理解して、沖縄のお墓参りを丁寧にこなしながら、楽しんでしまいましょう!
まとめ
沖縄のお墓参りでの「常識」とは
・御願の道具を一式揃えた「ビンシー」
・ビンシーは言わば実印。貸し借りはご法度
・天国で使うお金、「ウチカビ」
・ウチカビを燃やすボール、「カニバーキ」
・線香が6本くっ付いている板状の「ヒラウコー」
・お墓参りではまずヒジャイガミ様を拝む