沖縄に多い「悪霊祓い」の儀礼。祓うべき悪しきものとは?
沖縄では悪霊祓いの儀礼が、年間を通して数多くありますよね。旧暦2月の上旬に行われる「シマクサラシ」では、集落に「悪しきもの」がやってこないように、魔除けとなる左縄(ヒジャイナー)を入り口に張ります。
シマクサラシでは牛や豚をさばいて調理し、家々ではその血を枝先に付けた小枝を屋敷の四隅に差し、左縄(ヒジャイナー)には牛や豚の骨をくくるのです。(「シマカンカー」として祓う地域もあります。)
その他にも沖縄には悪霊祓いの儀式として、旧暦8月の「ヨーカジー」や「シバサシ」などなど、日ごろから数多くの行事が見られますが、それでは「悪しきもの」とは何なのか、その正体も気になりますよね。
そこで今回は、沖縄の悪霊祓いで追い祓われる「悪しきもの」とは一体何なのか、御願のグイスから紐解いてお伝えしていきます。
沖縄に多い「悪霊祓い」の儀礼。
祓うべき悪しきものとは?
沖縄の数々の「悪霊祓い」
沖縄の悪霊祓いの儀礼では、冒頭でお伝えしたように旧暦2月の「シマクサラシ」や「シマカンカー」の他、旧暦8月上旬に行われる(8日~11日が目安)「ヨーカビー」や「シバサシ」があります。
冒頭のシマクサラシでは、動物の血を付けた小枝を屋敷に付けて、沖縄の悪霊から追い祓っていましたが、それぞれの行事で違う呪具が登場するのも特徴的です。
【 沖縄の悪霊祓い、ヨーカビー・シバサシ 】
★ まず「ヨーカビー」では、人々は町を見渡して「火の玉」が上がっている家を見つけると、その家では厄祓いの御願儀礼が行われます。さらに夜になれば、沖縄の家々では悪霊を祓う「爆竹」が鳴らされるのです。
・ さらに同じ時期に行うシバサシでは、屋敷の隅々に魔除けの役割を持つシバ「柴」を差すのが風習です。
また、シバサシの沖縄の悪霊祓い行事では、家内で健康と強さの象徴とされる「赤カシチー」(小豆を混ぜたおこわ飯)もいただきます。
沖縄の悪霊祓いで祓われる「悪しきもの」
まず前項で「ヨーカビー」では火の玉を探すとお伝えしましたが、この火の玉は「イニンビー(遺念火)」と言われています。「イニンビー」とはその漢字からも分かるように、亡くなった方の念が火の玉となって表れた存在です。
その念は「悪しき念」(怨む心や憎しみなど)とされ、昔の沖縄ではこのイニンビーが確認された家では、三年以内に誰かが亡くなると恐れられていたようで、厄払いを行うようになりました。
【 沖縄の「悪霊」とは 】
★ また沖縄の拝み言葉(グイス)に出てくる「悪しきもの」に「ヤナカジ」と「シタナカジ」があります。これらも沖縄で悪霊祓いの対象となるものです。
① ヤナカジ … 「カジ」とも言われ、悪い霊の総称です。成仏できていない状態とされ、生きている者(イチミ)は負けてしまい、発熱や腹痛などの症状が出るとされています。
② シタナカジ … こちらも沖縄では悪霊のひとつで、ヤナカジのなかでも「汚い霊」です。
③ ミチバタムン … 道に彷徨う悪霊となり、他にも「ミチヌムン」「ミチマユイムン」などと言われています。こちらも生きている者は負け、発熱や吹き出物として現れます。
④ タタリムン … 名前の通り祟りの念を持って現世に残っている霊です。
⑤ マジムン … こちらは霊ではなく妖怪で、動物や道具などあらゆる物に入って人々を惑わす存在と言われています。「ムン」とも言われますが、ムンの方が人に憑依する性質があり、災いが大きい妖怪です。
マジムンは現在の沖縄では、可愛らしいキャラクターも見られるようになり、少し親しみを感じる言葉に変化しているかもしれません。
もともとは「ヒチマジムン」など、マジムンの霊の一種で、事故死などで家系に入れなかった霊と言う説もあります。
沖縄に残る、数々の魔除け
沖縄の悪霊祓い儀礼には欠かすことができないのが、魔除けの呪具です。前述した「シバサシ」では「柴」が登場しましたし、「シマクサラシ(シマカンカー)」では、左縄(ヒジャイナー)の結界の縄がありました。
ちなみに左縄は通常のみぎないではなく、ひだりないにした縄を指していますが、この他にも沖縄には多くの悪霊祓いのための呪具があります。
【 沖縄の悪霊祓い、呪具のいろいろ 】
① サン … 沖縄で魔除けと言えば「サン」です。芭蕉や藁などで結ばれたものもありますが、多くは魔除けの効力が強いとされるススキを結んで作られます。
② アジケー … しゃこ貝を開いて家の門の左右に吊るす家も多いです。貝の姿が女性の陰部に近いことから、魔除けの力があるとの説があります。
③ マース・スーミジ・マースミジ … 沖縄の人々が良く携帯しているのが「塩(マース)」です。スーミジ(潮水)やマースミジ(塩水)も、洗い清める力があります。
…この他にも日常的なもので言えば、石敢當(いしぐぁんとぅー)やシーサー(獅子)なども沖縄の悪霊祓いのひとつです。沖縄では塩を入れたマース袋は多くの方々が持ち歩いていますし、とても日常的に魔除けを行っていることが分かります。
いかがでしたでしょうか、今回は沖縄に多い悪霊祓いの儀礼、その悪霊の正体について、拝みの言葉(グイス)から紐解いてお伝えしました。「ヤナカジ」とは「悪風」と書きますので、疫病や伝染病の意味合いもあります。
最後にお伝えしたようなサンやアジケーなどは「ヌンキムン(悪霊除くもの)」と呼ばれ、注意をすれば頻繁に民家の門前で見掛けることができるかもしれません。(地域にもよります。)
沖縄の多くの過程で鎮座するヒヌカン(ヒヌカン)でも、掃除をする時には塩水で洗い清めるなど、日ごろの暮らしのなかで自然と行っているのが、沖縄の悪霊祓いの儀礼です。
暮らしに息づく沖縄の信仰、悪霊祓いにもその伝統が垣間見れます。この機会にマース袋(お塩を入れた小さな袋)を持ち歩くなど、「魔除け」を身近に取り入れてみてはいかがでしょうか。
まとめ
沖縄の悪霊と魔除けの方法
・ヨーカビーでは悪霊祓いの爆竹を鳴らす
・シマクサラシでは魔除けの左縄で結界を張る
・シバサシでは魔除けとなる柴のサンを差す
・成仏できていない霊に当たると発熱などが起きる
・マジムンなどの妖怪も人を惑わす
・ススキは魔除けの効力が強い
・塩も魔除けとなり、持ち歩く人は多い
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